JOL 的 リレー小説


タイトル未定



 現在進行中のリレー小説はこちらからどうぞ。(直リンは何故かはじかれる模様)





十周目一番



「さて、お楽しみといこうか」
「上機嫌ね」
「そりゃそうさ。《3つの鍵》と《1つの標》を揃えたんだぞ? これで機嫌が良くならないわけがない」
 言葉の通りに気分の良さそうなエルフィスは、懐から《巻物》を取り出し開く。碧樹双麒を得よ、という指示文を達成した。ならば、次の文が現れているだろう。なんにしろ、エルフィス――アルウィンはまた一歩世界を救う勇者に近づくことになる。思い通りに事が運んでいる。流れは今、自分にある。後いくつ文が出るかは知らないが、全て達成できる。そう思えるくらいだった。
 《巻物》を見る。新しい文が追加されている。その一文を読む。眼球が停止し、《巻物》を凝視する。その手は《巻物》を握りつぶすほどに握られ、かすかに震えている。思考が停止する。真白く。後に真紅に染まる。そして、言葉と共に《巻物》を投げ捨てる。
「ふっざけやがって!!!」
 ――絶頂にある時こそ、奈落に落ちる罠は用意されている。《巻物》に現れた新しい文。二度目の裏切り。こんなにも《巻物》を求めているというのに。こんなにも《巻物》に従順だというのに。《巻物》はアルウィンを突き放す。
 セレンティアはアルウィンの激昂に驚いてはいたが、特に刺激する事もなかろうと思い、声をかける事もしなかった。下手な事を言えば、何をされるかわかったものではない。そんな事よりも、アルウィンの豹変の原因の方に興味があった。投げ捨てられた《巻物》を拾い上げ、その文面を見る。その、最後の一行。
「……ふふ。なかなか洒落が利いているじゃない
 一度目は拒絶だった。『The End』という文が出、それ以上アルウィンに対して何の反応も見せなくなった。そして二度目は……
「『クオン・ゼアームに殺されろ』、ね。どうするの? 指示に従うの? それとも……」
「…………奴らは聖都にいるんだったな」
 それだけを言い放ち、押し黙ってイスティーアへ向けて歩き始めるアルウィン。セレンティアは肩を竦めると、黙ってそれに続いた。

 異常気象による大雪が振り積もる町の宿屋のある一室。そこにいるのは二人の少女――もとい、一人の少女と一人の女性。二人の様子は教師と生徒といった感じだった。少女は真摯な眼差しで、話に聞き入ろうと身構えているようだった。
「さて、それでは。……第一回、エル先生の戦闘講義〜」
 教師――エルは、陽気な声で授業の開始を宣言する。生徒――ソウカの方はというと、胡乱な物を見るようで。眉を顰め、瞳は抗議の色を帯びていた。
「マリエル……」
「んー? なに? 嫌なら講義止めるけど?」
 はぁ、と深いため息。これが役に立つのか判らない。が、現在ソウカの師匠――の様な感じになっている――のティオレから言われているのだ。無下に断るわけにもいかない。
「いいえ。続けて……」
「うふふ〜。素直よねぇ、ソウカちゃん。ティオレに言われた事を健気に守ろうとするなんて」
「ティオレの言っている事は一理あると思うから従うのだけれどもその対象があなたという事に一抹の不安があるというよりもむしろ時間の無駄になるような気がして仕方がないけども万が一という事もあるし他に出来る事もないので儚い希望を持ってあなたの話を聞いてあげるわ」
(まぁ、向きになっちゃって。いやほんと、可愛いわ、この娘)
 ティオレは用事があるとかで、今はどこかに行っている。その間に何をしようかと思っていた所に言われたのだ。多くの戦い方を学ぶ事は力になる、と。そしてマリエルの戦闘講義を受けるように言い渡されたのだ。
「まぁその前に、一応言っておくけども。……復讐なんてしても、つまらないわよ?」
「……あなたには関係ないことでしょう」
「ええ、言っても聞かないなんて事はわかってるわよ。でも、誰かが言い続けてあげた方がいいでしょう?」
 言葉の内容自体に意味がないとしても、それ以外の意味を伝える事が出来るから。だからマリエルはソウカに語りかける。戯れ合うかのような関係を持とうとする。
「まぁいいわ。では、講義を始めます。倒したい相手ってのは、ソウカちゃんよりも強いのよね? 自分よりも強い相手に勝つにはどうするか。色々方法はあるでしょうけども……そうね、例えば」
「例えば?」
「……落とし穴を掘る」
「……マリエル?」
 ソウカの顔が一層険しくなる。おふざけに付き合う積もりはないのだ。抗議の言葉を言おうとマリエルの方を向く。が、その顔に虚をつかれる。マリエルの顔はふざけているようではなかった。
「自分よりも強い相手に真正面から戦ったって負けるだけ。ならそれ以外を考えるの。騙す、惑わす、罠にかける、意表をつく。まぁ、方法はなんでもいいけどね」
「……」
 半ば浮かせていた腰を落ち着かせる。どうやら真面目に講義をしてくれるようだった。いささか奇をてらったような内容ではあるが、確かにこれはティオレからは聞けないであろう内容だ。
「罠を仕掛ける場合の難点は、相手を罠のある場所に誘き寄せないといけない事なんだけどね。でも他にも色々手段はあるわ。例えば……」
 マリエルは茶化すことなく、ソウカも真面目に。講義は続いていった。


斎祝 (05.06.24)
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