人の行きかう街中をジェッターは歩いていた。
「勢いよく街に出たのはいいが・・・どうすりゃいいんだ? こういうことはシエーアの領分だろうに・・・まいったね」
人の流れに逆らわずジェッターは歩みを進め、一軒の酒場に入りこんだ
店の中は昼間にも関わらず数人の客がいて賑わっていたがジェッターが店のドアを開けた瞬間、酒場は静寂に包まれ一斉にドアへ視線を集中させ今入ってきた男を値踏みした。
一瞬の間を置いて客同士の会話が再開し、酒場は元の賑わいを取り戻した。
「ひゅ〜」
軽く口笛を鳴らしジェッターはカウンターへと向かった。
「なににしますか?」
店のマスターが無愛想ながらに注文を聞いてきた。
「ああ、エールをジョッキで」
ジェッターは空いている席に座りコインをテーブルに置いた。
「はいよ、ところであんた見慣れない顔だね」
ジョッキを出しながらマスターは話しかけてきた。
「最近この街にやって来たんだ、ところでこの辺で魔法に詳しい奴って知ってるかい?なにせこの街のこと全然わからんからな」
エールで喉を潤しながらジェッターはマスターに情報を求めた。
「さあな魔法に詳しい奴なんて知らないな、この街ではあまり魔法は歓迎されないのさ」
洗い立てのグラスを拭きながらマスターは答えた
「そうか・・・、なにか情報があったら教えてくれな」
残っていたエールを一気に飲み干しジョッキをカウンターに置きその横に金貨を1枚置いてジェッターは立ち上がり店を後にした。
店を出て暫く裏通りを歩いてみたが付いてくるのは素人同然の尾行者のみだった。
「まあ聖都ってところはつまらんね、ギルドはないし情報収集は捗らないし、監視はシロウトに任せるし、えさには喰い付いてこないし」
街に繰り出してから2,3軒回ったが未だなんのリアクションがないのである。
「参ったな」
頭を掻きながら裏路地の闇へと消えていった
トントン、ドアをノックする音が聞こえた。
「お入りなさい」
書物から目を離しフィアナはドアへ視線を向けた
「ハイ」
短い返事のあとドアが開きフードを被った男が入ってきた。
「何事ですか?」
なかなか報告をしない男に向かって静かに話しかけた。
「はっ、監視していた男を街中で見失いました。申し訳ございません」
男は深々と頭を下げながら言った。
「別に構いませんよ、見失う前までの行動を報告してください」
フィアナは見失う前までの状況を聞きだした
「ご苦労様でした、引き続き監視をお願いします」
男はどんな罰をも受けいける気であったが、フィアナの態度に安堵し部屋を出て行った。
フィアナは報告を受けた後、椅子から立ち上がり窓から街中を見渡し、ため息をついた。
「ふぅ、やはり教会の者では手に負えない相手でしたね」
暫く窓から外を見ていたが突如、手元の指輪が小刻みに震え始めた。
「進入者?」
この指輪は結界内の進入者を知らせる能力を持っている。
その指輪がいままさに進入者を知らせたのでフィアナは軽く身構えた。
コツ、コツ
小石が窓を叩く。
フィアナが目を凝らすとそこには監視者を撒いた男が木の上に立っていた。
「いよう、ちょっとそっち行って良いかな?」
呆れながらもフィアナは窓を開け
「どうしてここに?」
と質問した。
「ちょっと逢引に・・・って露骨に嫌そうな顔しないでくれよ
いやなに、尾行されていたから撒いて逆に尾行してやったのさ、そうしたらココに辿りついたって寸法さ、それにあんたにも聞きたい事もあったしな」
ジェッターは窓枠から音も立てずに部屋に入り込んだ
「で聞きたい事とは?」
窓際の位置をジェッターに譲った為、フィアナは椅子に座った。
「ちょっとした魔法に関係した事さ、まあ同じ釜の飯を食った仲だろう」
「何のことを言ってるのか判りませんが私で判る範囲であれば魔法の事をお答え致しますわ」
ティオーレとは違った意味でのポーカーフェイス、微笑を絶やさずフィアナはジェッターの質問を待った。
「クオンが気が付く事をオレッチが見逃すと思う?まあ別に気にはしてないけど・・・
ここから本題な、いまシエーアの奴が身に着けているネックレスってあれは魔法のアイテムとかなのか?魔法に関してオレッチはからっきしダメなんだよ。
アレを街で買ってきてからなんかシエーアの様子がおかしいんでな」