JOL 的 リレー小説


タイトル未定



 現在進行中のリレー小説はこちらからどうぞ。(直リンは何故かはじかれる模様)





十一周目三番



「それで、今更私になんの用だ?」
 その問いに対して、エルウィンは4振りの剣を――紅蓮鳳凰・蒼漣龍皇・碧樹双麒を、続いて《巻物》をヒアデスに見せ付けるように取り出す。その顔には、相手に対しての優越感に酔う様な笑みを浮かべていた。
「いやなに、《標》と3つの《鍵》を揃えたのを見てもらおうと思ってな」
「ほう。それはご苦労だったな。それで、私に労いの言葉でも貰いに来たか?」
 ぎりっ、と歯が鳴る。顔が歪む。それまでの笑みが一転、怒りや憎しみのそれになる。一緒に旅をしていた時から、この男はそういう奴だった。全てを判っているくせに、こちらがはっきりと口にするまで相手にしない。むしろ、こちらの神経を逆撫でする様な言動をしてくる。
「ここにいると聞いて会いに来てやったんだよ。『お礼参り』にな。《巻物》を手に入れた俺に近づいてきて、そのくせ早々に俺を見限ったお前にな」
「そんなことか。つまらん用だ」
「つまらないだと!? 俺はそれなりにお前を信頼していたんだよ! それを裏切りやがって!」
 机から降りるエルウィン。今にも襲いかかりそうな、剣呑な雰囲気を醸し出す。だがヒアデスは体勢を変えない。エルウィンが自分を殺しに来ているというのに普段のまま。あるいは、普段から何が起こっても対処できるように気を張っているのか。なんにしろ、いま自分が置かれている状況に対して特別な反応はしていなかった。
「信頼とは強制ではない。信頼を寄せたのはお前だ。お前がお前の意思でそうすると決めたのだろう。裏切られたからと言って他人の所為にするな。それは、相手を見抜けなかったお前の落ち度だ」
「……黙れよ。お前の説教なんてくそくらえだ」
「それと、裏切られたのはこちらも同じだ。私はお前に期待していたのだ。故にお前に協力していた。だがお前は《その者》になれなかった。私は落胆したよ。……《絆》より先に信頼を得る事が出来る機会などそうはないからな」
「黙れって言ってるんだよ!」
 エルウィンは剣を抜き放ち、斬りかかる。薄暗い部屋に数度刃が閃く。並みの剣士ならば受ける事すらままならない程のエルウィンの変則的な攻撃を、ヒアデスは危なげなくかわしていく。
「お前に言っておく事がある」
「はん、今更命乞いか?」
「お前の妹の事だ」
「……!」
 その言葉に、一瞬動きが止まる。そこにヒアデスの蹴りが入り、壁まで吹き飛ばされる。
「がはっ……くっ、シエーアの事だと?」
「お前の妹は《その者》と――」
「資格者は俺だ!」
「――クオン・ゼアームと行動を共にしていたが、今は行方がわからなくなっている」
「なんだと!?」
「これは誰も知らない情報だが、何者かに攫われたのだ」
「な、誰だそいつは!?」
「それを指示したのは私だ」
「っ……てめぇ!!」
 一瞬で接近し、頸を狙って剣を振る。それに対して、ヒアデスは微動だにしない。そのまま、頸から血が流れる。――皮一枚だけが斬られた頸から。ヒアデスは微動だにしない。眉1つ動かすことなく。自らの頸に絶命の意思を込めた刃が迫ろうとも。
「無論、私に何かあった場合、お前の妹がどうなるか――」
「シエーアはどこだ!」
「知らん」
「言え!」
「指示を出しはしたが、今どうなっているかは私は知らない。それに、知っているとしてもお前に話すと思うか?」
 ヒアデスを憎々しげに――今まで以上の憎悪を持って睨みつける。心臓の弱いものならばそれだけで命が危険に晒されそうなその視線を全く意に介せず、ヒアデスはもう終わりだとでも言うようにエルウィンに背を向け扉に向かう。
「さて、私は部屋の処理をさせるために誰かを呼ぶが。お前はどうする?」
「くそ! てめぇは絶対に楽には死なせねぇからな!」
 忌々しげに言い放ち、窓から外に出る。そこには、一部始終を見ていたのであろう、『水』を冠する魔術師が一人。
「あら、もうお仕舞い?」
 からかうようなその言葉に、射るような視線を向ける。その視線に、セレンティアは肩を竦める。
(相変わらず感情の波が激しい事。まぁ、その方が御しやすいと言うものだけどね)
「行くぞ、セレンティア」
 その言葉に応じるように、セレンティアは呪文を唱え始める。呪文が完成すると、二人の体が光る球体に覆われ、そのまま湖へと入っていった。

 《聖都》イスティーアの外縁、誰も寄らない町の端。その場所にセレンティアが仕える組織の隠れ家がある。その隠れ家の更に奥の薄暗い一室。その部屋の四隅には燭台が置かれ、床と天井には複雑な文様が――魔法陣が描かれている。そこは魔法の儀式を行う部屋だった。
 その部屋には一人の男がいた。だが、その男はこの部屋には似つかわしくないかもしれない。この部屋に合うのは、ローブ纏った顔色の悪い痩せた男のような人間などであって、鎧を着た厳しい顔の体格のいい男ではない。男は魔方陣の中央に胡坐をかき瞑想していた。
「……ふぅ。こういうものは、私の領分ではないのだがな。」
 それは仕方がないことだった。本来魔法を得意としているものが今この場にいないのだ。故に、騎士である彼がなれない事をする破目になっている。
「とはいえ、あの男の言う通りではあるからな。あの力は不安定であるが故に、覗き見ることすら出来ていない。ならば自然に任せるよりも、こちらで強制的にというのは一理ある。……資格者たちの動向を探れなくなるのは残念だがな」
 瞑想し、十分に気を落ち着かせたクレイトンが呪文を唱え始める。脳裏に思い浮かべるのは首飾りにされている黒晶石、効果の対象はその持ち主たるあの少女――シエーア・ダーナム。彼女を手元に置くために、クレイトンの呪文が紡がれていった。


斎祝 (05.08.20)
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