JOL 的 リレー小説


タイトル未定



 現在進行中のリレー小説はこちらからどうぞ。(直リンは何故かはじかれる模様)





一周目二番



 ドサッ
 1歩、また1歩と進んでいた彼だが遂に力尽き、倒れてしまった。
 薄れ行く意識の中、彼は『トレートティース』を目指す事になったいきさつを思い出していた。

 とある街の、少し裏に入った路地の片隅にその店はあった。
 外観は店なのか只の家なのか判断がつかないくらいだった。
 あの、ぞんざいな感じの看板がなければ店だと気付かなかっただろう。
 (へー、こんな所に店があるのか)と彼は気まぐれにその店に入った。
 その店の中もまた『店』というイメージとは離れたものだった。
 店内には所狭しと置かれた彫像・絵画・本・剣・杖・etc……
 棚から溢れた物が床に無造作に並び、足の踏み場もないほどだった。
 この光景を見た人は『泥棒に入られた倉庫』とでも答えるかもしれない。

 彼は品物を見ようと適当に近くにあった像に手を伸ばし……
「待て」
 ……だが、すんでで呼びとめられた。
「一応警告しとくが、お前が触ろうとしているそれは邪教の儀式に使われた物でな。それなりに実力のあるものでないと呪われる」
 ぎょっとし、手を引っ込める。
「そんなものを無造作に置いとかないで下さい…」
「お前が入ったのはそういうところだと諦めるんだな」
 眼鏡をかけ煙管を燻らせたその女性が店主なのであろう。
 ただし、彼女もまた『店主』というイメージからは離れていた。
 明らかに客の応対をする気がない雰囲気があった。
 というよりも、客が来たことが迷惑そうですらあった。
「それで?うちの店に何か用?」
「え?あー、えーと…」
(さて困った)
 なんとなく、ただの冷やかしだと知れたら怒られそうだった。
 どうしたものかと考えていると、店主がこちらを見つめていた。
「あの…なにか?」
「ふむ…うちの店の事を知ってきたのではないな。
 引き寄せられた口か。なら…とりあえず、そこに座れ」
「そこって…」
 店主が示した場所には椅子があるが…そこにも物が積まれていた。
 だが、こちらにかまわず店主は何かをの準備をしているようだった。
 仕方ないので、慎重に物をどけ座る事にした。

 店主はカードを手に、何かを占っている様だった。
「なるほど。そういう運命(さだめ)か」
 そういうと、店主は立ち上がり、巻物をこちらに投げてよこした。
「お前は今人生の岐路にいる。それも大きな。世界に出て何かを成し遂げたいなら、その巻物を開くといい。このまま平穏に暮らしたいならそれでもいい」
「は?」
 突然の言葉に、暫く思考が停止する。
「その巻物はお前を運命(さだめ)に導く。だがその道は平坦ではない」
「いや、いきなりそんな事言われても」
「従わないのならお前の人生は平凡なものになるだろう。巻物に従うか否かはお前の自由だ」
「一体何がなんだか…」
「話はこれで終わりだ。さ、帰ってくれ」
 そういって、こちらに興味を失った様に店の奥へ歩いて行き……
「ああ、そうだ。ちゃんと占いと巻物の代金は置いていくように」
 ふと思い出した様に、そんな事を言ってきた。
「…性質の悪い押し売りですか!」
「世の中は不条理なものだ。犬に噛まれたとでも思って受け入れろ」
「そうですね。目の前に不条理の権化がいる気がしますよ…」
 なんとなくこの人に逆らっても無駄だと思い、金を払って店を出た。

 結局、特に目的のなかった彼は巻物に従ってみる事にした。
 あの店主が言った事は正しかったのだろう。
 トレートティースに着く前の時点で既に色々とあったからだ。

 目覚めると、見知らぬ部屋に寝かされていた。
 そこは、質素な部屋だった。
 部屋にある物は彼が寝かされているベッドにクローゼットが一つ
 それと簡素な机と椅子、それぐらいの物だった。
(…ああ、よかった、ちゃんとある)
 部屋を見渡すと、彼の持ち物があった。なくなっている物はない。
(運がよかった…かな?)
 あんな所で意識を失い、命が助かったばかりか持ち物まで失わなかったのだ。彼は自分の幸運を神に感謝した。

 道で倒れていた所を通りかかったこの家の人間に助けられたらしい。
 彼は礼を述べ、街の宿に移る事にした。
 ちなみに何かお礼しようと申し出た所、大した事はしていないから、と断られた。

 彼が取った宿は、遺跡に入って宝を得たり人々の頼みを聞いて生計を立てる者が集まる店、いわゆる『冒険者の宿』だった。
 そここそが、彼のこの街での目的地であった。
 巻物には『トレートティースにて旅の仲間を集めよ』と書いてあった。
 旅の仲間を集めるのに都合のいい場所と言ったら冒険者の宿だろう。
 彼は、店のマスターらしき人に声をかけた。
「仲間を集めたいんだけど、どうするのが一番いいんですかね?」
「ん?冒険者仲間が欲しいのか?なら、そこに張り紙をしてみるかね? ここには仲間を集めようって輩も来るからな。運がよければ集まるだろう。あとはまぁ、地道に探してみるしかないかもな」
「…金が尽きる前に集まるといいんですけどね」
 その言葉に従い、張り紙をして待ってみる事にした。

 その後街を散策し、夕飯時を過ぎる頃に宿に帰ってきた。
 冒険者の宿は酒場を兼ねている事が多く、彼が戻った時も賑わっていた。カウンターに座り、少し遅目の食事をとっていると…
「なんだと、ごるぁ!」
 ドンッと机を叩く音と共にそんな声が聞こえてきた。
 見やると、3人の男が女性に絡んでいるらしい。
 明らかに男たちは酔っている。
「耳も悪いようですね。病院に行く事をお奨めしますが」
「ああ!?ざけんなよ、このあま!」
 (ま、こういうごたごたはどこにでもあるよな)と苦笑しつつ、流石に険悪なムードに見かねた彼は男たちを止めに入った。
「月並みな台詞で悪いけど…彼女が迷惑してるし、店にも迷惑だ」
「だったらなんだっていうんだよ」
 男はそんな事を言ってきた。意味がわからないという事もないだろうが…
「その人達は遠まわしな言い方は理解出来ないみたいです」
 本気なのかどうなのか、彼女は真顔でそんな事を言った。
「…なら、分かりやすく行こう。邪魔だから店から出ていけ」
「っんだとこの野郎が!」
 彼女と話していた時点で相当頭に血が上っていたのだろう。
 男は彼に殴りかかってきた。だが、その動きは素人のそれであり、また酔っ払っていては彼の敵ではなかった。
 向かってきた男をカウンターの1発で沈めると、そのままもう一人の男に向かい、反応する前にこちらも1撃で沈める。
 少しとどまり最後の男の方をみると、一瞬で二人倒された事で酔いも覚めたのか倒れた二人を引き摺って帰っていった。
 ふと女性の方を見やると一連の出来事を表情も変えずに眺め、食事を再開していた。

 その後、彼の手際の良さを賞賛し盛り上がったが、
 ただの盛り上がりのネタに過ぎずに直ぐに彼は解放され、今は一人カウンターでノンビリしていた。と、横から飲み物が出された。
「一応、先ほどのお礼です。お礼を言おうかと思っていたのですが、賑やかなのは苦手なので落ちつくまで待っていたら遅くなりました」
 見ると、先ほどの女性だった。とっくに帰ったと思っていたが…
「いえ、俺がやらなくても誰かがやっていたでしょうから」
 酒場ではこういう事も日常茶飯事なので面倒事を解決する為の従業員がいるものだろう。
 何よりここは冒険者の集まる所である。こういった事が得意な連中には事欠かないだろう。
「だとしても、実際に彼らを止めに入ったのはあなたです」
 そういう彼女の姿を見る。彼女の第1印象は『黒い』だった。
 黒い髪に黒い瞳、そして黒いカソック―裾の長い法衣―と全身黒ずくめだった。
 カソックを着ているということは聖職者なのであろう。そしてここは冒険者の宿である。
(これも何かの縁…かな?)
「その…お一人ですか?」
「…先ほどの男たちの同類ですか?」
「ああ、いや、そうじゃなくて…えーと、あなたは冒険者ですか?」
「冒険者…とは少し違う気もしますが、旅に出ているということであるならそうです」
「俺は冒険者で、今旅の仲間を探しているんです。それで…」
「私を誘おうとした。と言うことですね」
「これも何かの縁と思って」
「…そうですね。これも何かの導きでしょう。教会の任務が来たらそちらを優先しますが、それでもよろしいのでしたら」
「ええ、かまいません。その時はその任務を手伝いますよ」
「では、よろしくお願いします。私はティオレ・グローライト。クラリックです」
「こちらこそよろしく。俺は…」


Written by 斎祝 (03.11.25)
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