JOL 的 リレー小説


タイトル未定



 現在進行中のリレー小説はこちらからどうぞ。(直リンは何故かはじかれる模様)





十二周目三番



「シエーア……?」
「ってあれ、えーと……ソウカちゃん?」
「……そんなところにいないで、座ったら?」
「ああ、そうだな」
 扉の所に突っ立っていたクオンとティオレも部屋に入り、座る場所を探す。が、元より狭い部屋の中。そこに男が2人に女が4人。座る場所はあるけれども全員が座って話をするには狭く、結局二人は立ったままでいた。
「いやぁ久しぶ ――」「えーと、なんでソウ ――」「シエーアはどう ――」「何で私も部 ――」「さて、再会を祝し ――」
「「「「「…………」」」」」
 皆で ―― ぼうっとしているシエーアは除く ―― 同時に話しだし、そして同時に黙る。
「いやなんか、最近おか ――」「それと、こっちの ――」「はい、概ね問題 ――」「ティオレとは運 ――」
「「「「……」」」」
 そしてまた同時に話し、同時に黙る。ただし今度は4人。1人抜けたソウカはというと、眉間に詩話を寄せ額に手を当てていた。。
「「「それで ――」」」
「待った!」
 と、やや大きな声を上げたソウカに皆の視線が集中する。疲れた顔でため息1つ。
「あなた達。1人ずつ話して……」
「それもそうね」
「流石ソウカちゃん、いい事を言うな」
「よし、そんなソウカちゃんには指名権をあげよう」
「……はぁ」
 これ見よがしのため息をまた1つ。いつもの調子のマリエルと、ジェッターも加わったそれに、ソウカは倍の苦労を感じる。
「いいわ。まずはあなた、えーと、クオン?」
「ああ。えーとまず1つ。なんでソウカちゃんがティオレと一緒に?」
「奇妙な縁、という事でしょうか」
「端的に言うと……拾った?」
「……は?」
「……不本意だけども、間違ってはいないわね」
 眉間に皺を寄せ、唸るように言うソウカ。クオンとジェッターは顔を見合わせる。
「一体どういうこと?」
「気にしないで」
「そう、私とソウカちゃんは運命的な出会いを果たしたのよ。それで、親しくなっていったの、裸の付き合いを通して」
「なっ、マリエル!?」
「ほう、詳しく聞きたいな、それは」
「……あなたも」
 再びの、マリエルと新たに加わったジェッターの『いつもの』に、雰囲気が険しくなるソウカ。
「と、まぁ冗談はこれぐらいにして」
 暴れだしそうなソウカの機先を制し、話を一旦打ち切ろうとするマリエル。……ジェッターは、本気で聞きたそうにしていたが。
「まぁいいか。で、こっちの人は?」
「私? 私はマリエル・クローネ。エルでいいわ。……ああ、あなた達の紹介はいいわ。話を聞いて知っているから」
「そうか? じゃまぁ俺はこれで終わりだ」
「次は、ティオレ」
「はい。シエーアはどうしたのですか? 何か様子がおかしいようですが」
 皆の視線が再度1人に集中する。当のシエーアはというと、最初から変わらず。周りに関心がないかのように、自らの首飾りの黒い石を見つめたり、虚空を見つめたりしていた。
「シエーアは数日前からああなんだ」
「んー、あの黒い石が怪しくない?」
「ああまぁ、そんな気はするんだが」
「……数日、そのままにしているのですか?」
「いやまぁ、なんかこう……なぁ?」
「いや、同意を求められても困るんだが」
「こんな状態のまま放っておくなんてね」
「えーとその……」
「「ごめんなさい」」
 女性陣に責められ謝るクオンとジェッター。確かに異変を感じていたというのに、この数日碌な手段を講じずにただ見ているだけというのは問題だったかもしれない、とそういう気持ちがあったからか、つい反射的に謝ってしまっていた。
「それで後は……はぁ、まぁいいわ。近況報告なりなんなりしていて。私は自分達の部屋に行っているから」
「えーいやそんな……いやうん、そうね。私は再会パーティの準備でもしてくるわ。ね?」
 と言って、ジェッターの方を向き、目配せする。ジェッターは一瞬何事かと考える。が、直ぐに合点がいったようで、マリエルの話にうなずく。
「おお、そうだな。俺も準備に加わろう。シエーアはー。うんまぁ、ここに居ていいか」
「じゃ、俺も……」
「「いやいやいや、クオンとティオレはここで近況報告でも」」
 言いつつ、ソウカの肩を押しながら出て行くマリエルとジェッター。部屋に残されたのはクオンとティオレ ―― と、全く反応を示さないシエーアの3人。
「ふむ? まぁなんだ。元気だったかい?」
「はい」
「その、こっちも皆元気……いや、シエーアは今あんなだが、大概元気だったよ」
「そうですか。それはよかったです」
「えーと、分かれてからこっちは ――」
「クオンたちの事は聞いています。色々とあったようですね」
「ああそうなのか。まぁ色々とあってなぁ。それでえーと……」
「クオンは ――」
「ん?」
「クオンは、その……大丈夫でしたか? 報告には聞いていて、何があったかは知っているのですが」
「あ、ああ、もう全然、物凄い勢いで平気だぞ」

 そんな、普段とは違う行動をとった自分に途惑うようなティオレと、しどろもどろなクオンを見守る瞳が6対。
「……ああもう、何をやっているんだクオンの奴……」
「……まるで子供の初恋ね……」
「……というか、あなた達は何をしているの……」
「……ソウカちゃんだって……」
 準備をすると言って外に出たマリエルとジェッターそれにソウカもが、薄く開けてある扉を張り付き、顔を三段に重ねて中を覗いていた。3人は、クオンたちに気付かれないように声を潜めていた。
「……私は、あなた達が一緒にと言うから……」
 自分で言ってて言い訳に過ぎないと判っているのか、恥じ入るかのようにうっすらと頬を赤く染めながら、ソウカが言う。それを見たマリエルは ―― いや、見ていなくても反応は予想していたのかもしれないが ―― にやにやとした笑みを顔に浮かべる。
「……はいはい、そういうことにしておきましょ……」
「……しかし、クオンの旦那も情けないなぁ。恋愛経験が少ないんじゃないか?……」
「……そうねぇ。如何にもな朴念仁、って感じだしねぇ、クオンってば……」
「……自分達はそうじゃない風に言うのね」
 ソウカは立ち上がり、覗くのをやめて2人に言う。それに倣うかのように二人も立ち上がる。というよりも、一向に進展しない2人を見ているのにも飽きたのだろう。
「そりゃ、俺は恋多き男だぜ?」
「私もそうよ。私に惚れた男は両手じゃ足りないわよ?」
「……片思いと自意識過剰は、数に入れないわよ」
「ぐっ」
「ううっ」
 二人に一矢報いたソウカは、微妙な満足顔で自分達が取った部屋に向かう。と、その後姿にマリエルが声をかける。
「そういうソウカちゃんはどうなのよ?」
 その言葉にまず反応したのは、ジェッターであった。触れてはいけないものに触れてしまったと。そしてもう止める事が出来ないそれにどういう反応を示すのが正しいのかわからないのか、複雑な表情をしていた。ソウカはというと、ジェッターとは反対に、表情を消していた。
「…………たった一度だけよ。本当に愛した人がいた」
 脳裏に浮かぶのは、幸せだった情景か、赤い部屋に転がる顔か。
 いつもの通りにからかうつもりでいたマリエルは、ソウカがそんな辛そうな顔をするとは想像していなかったのか、意表を付かれたようであった。そして直ぐに、自分の失敗を悟る。
(あちゃ、失敗だったなぁ。ソウカちゃんにはこの話題は鬼門だったのね。……そうか、仇ってそういう事なの)
「まぁなんだ。そろそろ俺達は再会パーチーの準備をしに行こうぜ」
「ええ、そうね」
 心の中で謝りつつ、マリエルとジェッターは階下に降りていく。今夜盛大に騒ぐための準備に。辛い事を一時でも忘れる事が出来るくらいにしよう、とマリエルとジェッターは思っていた。

 教会の総本山、聖都イスティーアの聖教府。その周りをぐるりと囲んでいる湖。そこに浮かぶ、自然現象では生じることはないであろう、巨大な氷の大地の上に、人影が3つ。1人は長身な男。法衣を身につけている事を見ると、教会の人間だろう。1人はローブを身につけた人影。外見からは性別は判断できない。やや曲がった腰と、元より低い背により男とはかなりの身長差があった。そして最後の1人は女性。纏った薄絹の胸の辺りを暗い色で染めている。そして、その胸には穴。絶望的な穴。氷の大地に横たわる彼女は、明らかに絶命していた。
 そこに、一羽の鳥が舞い降り、ローブの人影の肩に止まる。何度か鳴き声を上げるそれに耳を傾ける ―― まるで、鳥の言葉を聞いているかのように。
「ふむ、クレイトンが死んだようだ」
「まさか、何もしないうちに消えるとはな。あなた達も意外に役に立たない事だ」
「相手が悪い。それに、巡り合わせも悪かった」
「単に迂闊なだけだろう」
「それは否定せんよ。あれだけの力を持ちながら、何も出来ずにこうも容易くだからの」
「クレイトンの部隊が制圧された、ということはシエーア・ダーナムは《資格者》の元に戻るか」
「恐らくは。つまらぬ事だ。あの娘が面白くしてくれるかと思っておったのに。……全くつまらぬ事だ。一方的にやられるだけでは本当につまらぬ」
 ローブの人影の男とも女とも取れる声は、倦怠感に満ちていた。そこには、仲間の生死を気に病んでいる様子は全くない。
「これで、あの石は取り上げられてしまうだろうな」
「かまわぬよ。数日の間放っておかれていたのでな。十分仕込めたわ。もはや黒晶石は必要ない」
 ローブの人影がしゃがみ、女の死体に手を伸ばす。死体の腕から装飾品を抜き取り、男に手渡す。それは、大きなアクアマリンのついている腕輪だった。金属部分には、完璧な計算の元に刻まれている緻密な細工がしてある。
「それの扱いは任せる。……さてと、セレンティアの代わりに仕事をこなしてくるかの」

 朝、世界を照らし出している太陽が、聖教府を囲む湖にも降り注いでいる。その湖の、日も届かぬ水の底。通常ならば人が活動するような場所では決してないそこにある、ぼろぼろな、辛うじて家屋としての体裁を保っている程度の建物。そこが今は水を拒絶し空気を取り込み、人がいることの出来る隠れ家となっていた。
 その場所で、エルフィスは苛立っていた。自分をこんなところに連れてきた張本人のセレンティアが一向に戻ってこないからだ。昨日の夜遅く、何か焦った風で出て行ったまま帰ってきていない。
(くそ、何してやがるんだアイツは。人をこんなところに閉じ込めて何してやがるんだ)
 本当なら、さっさとこんなところを出て行って行動を起こしたいところだった。だがここは湖の底。エルフィスの能力ではここから出る事は出来ない。否、出来る事は出来るだろう。その労力を考えると馬鹿馬鹿しい位だが。ここにいる他の者も同様であるようだった。だからエルフィスは、ただただここで待たされている。
 周りの連中も、外と連絡が取れなくなり慌てている。どうやら、地上で何かあったらしい。
「ちっ、セレンティアも役にたたねぇな」
「全くだな」
 突然背後から声をかけられる。エルフィスは反射的に振り向き、武器に手をかけ戦闘態勢に移った。少し気を抜いていたかもしれないが、今の今までそこには誰もいないはずだった。それが、自分に気配を感じさせる事なく、いつのまにか存在していた。背後に居たのは赤茶けたローブを身につけた人物だった。フードを目深に被っており、男か女かは判別できなかった。
「……誰だ、てめぇ」
「私は『地』のキルウィス」
「ほう、『地』もいたんだな。それで?」
「まずはその臨戦態勢を解いたらどうだ。お主に害を及ぼすつもりなら、とっくにやっている」
「気にするな。気配を消して人の後ろに立つような奴は警戒する主義なんだよ」
「ふむ、一理はあるか。まぁいい、そのままで聞け。お主に話を聞かせてやろう。その《巻物》にまつわる話をな」
「そりゃいいや。セレンティアの奴が戻らなくて暇をしていたんだ。聞いてやる」
「ああ、そのことだが。セレンティアは戻らぬよ」
「戻らない?」
「おかげで、私がこんな事をする破目になってしまった。面倒な事だ。……さて、では語ろうか。災厄を回避しようとしてきた愚か者達の話を」


斎祝 (05.10.08)
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