JOL 的 リレー小説


タイトル未定



 現在進行中のリレー小説はこちらからどうぞ。(直リンは何故かはじかれる模様)





二周目三番



「っでさー、ジェッターがそんなコトいうモンだからさぁ、ボクはいってやったわけよ! ……って聞いてる? クオン!?」
「あ? ああ、おう、聞いてるぞ、そりゃもう物凄い勢いで」
「物凄い勢いで聞くってどんな聞き方だよ、もう……」
 ぷうっ、と風船みたいに頬を膨らませたシエーアが、かたんっ、と音を立てて椅子に座る。ということは立ち上がっていたわけだ。それだけ話に熱が入っていたのだろう。聞き流して悪かったかな? とちょっと思ったが、正直なところ、それどころではない、というのがクオンの実感である。
 半分も減っていない杯を取り、酒を喉に流し込む。たいして強い酒でもない。実際、ふだんならどうということもないだろうが、今夜はやけに回るように思えた。要するに疲れているということだろう。なにせ、行き倒れて助けられた、あの民家で目を覚ましたのは今朝のことなのだ。それから一日、街中を散策し、この酒場に戻ってきたのがすでに夕飯時を回った頃だった。そこからティオレとシエーア、ジェッターを仲間に加えて町外れの教会跡地に向い、戻ってきたのだから……かなり夜も更けているはずだ。今朝行動を開始したときには長旅の疲れはぬけきっているように感じたものだが、どうも甘かったらしい。
「あー悪い、やっぱ疲れてるみたいだ」
「やっぱ、ってあんだけの偵察で?」
「いや、えっと云わなかったっけ? オレ、この町を見つけ出すのにやたら苦労してさ、門のトコで行き倒れてたんだ」
「……はい?」
 自分も杯をなめていたシエーアが、噴出しそうな勢いで聞き返す。
「行き倒れって……よく無事だったねぇ……」
「あーなんか親切な人に助けられてね。今朝目を覚まして、すっかり回復したと思ってたけど、さすがにこの夜更けになるとこたえるよ……」
「親切な人……って、実は物盗りだったりとかしなかった?」
「いや、荷物は確かめたけど、なくなってるものはなかったよ?」
「……ふーん、そりゃよほど運がよかったんだね。このトレートティースで行き倒れてそんな親切な人に助けられるなんて」
「……そうなのか?」
「そうだよ」
「まぁそりゃアレだな。神のお導きだ」
「……何でもかんでも神のお導きにすりゃいいってモンじゃないよクオン……」
 長いため息をつく。
「とにかく、そういうことなら早めに部屋に戻って休みなよ。仲間を増やす件はジェッターとティオレに任せて、さ」
「だな、わりぃ、そうさせてもらう」
 残った酒をあおって、クオンは席を立った。さすがにふらついたりするようなことはないが、云われてみると、その背中は確かにずいぶんと疲れているように見える。
(……神のお導き……か……)
 ボクの場合は夢のお導きってコトになるのかなぁ、とか、考えながら杯を傾ける。
「ありゃ、カラだ」
 その声に答えるように、新しい、なみなみと酒の注がれた杯が置かれた。
「あ、ジェッター」
「おう。クオンのダンナは早上がり?」
「うん。なんか行き倒れてたって話だよ」
「はぁ?」

「最初の報告はもっと遅れるかと思っておりましたが、ティオレ・グローライト」
「機会が……生じましたので」
「機会?」
「『教会の知り合いに連絡を取ってみる』といって」
「……っははは。なるほど、教会の知り合いには違いない。で、どうでしょうか?」
「確証はありません。しかし、肩を並べて戦った「感触」では、可能性はあるかと」
「ふむ」
「剣については彼ではないようですが」
「ああ、セストールの剣を奪った男は、すでに発見の報告が入っておりますよ、ティオレ」
「発見された……?」
「《ラビリンス》に現れたようです。すでに追跡者をつけております。なかなかの手練のようですが、発見してしまえば《教会》から逃げおおせることなどできはしません」
「それはもう」
「それで、あの男――なんといいましたか……」
「クオン、だそうです。クオン・ゼアーム」
「そう、そのクオンについては引き続き監視と支援を。巻物は?」
「わかりません。それらしきものはまだ見ておりませんが……」
「彼が巻物を持っていたことは明らかです。しかし、その巻物が該当するものであるかどうかは――」
「行き倒れた彼を助けた信徒では確認できなかった……」
「そうです」
「仲間になった中にシーフだという者がおります。彼を抱き込めば、私が確認することもできるかもしれませんが……」
「その手段は最後まで取っておきましょう、ティオレ。彼が《その者》であるならば、敵対につながるような行為は避けるべきです。またそのシーフが信頼できると確認できるまでは、教会の任務に関わらせるべきではないでしょう」
「はい」
「よろしい。彼――クオンが《その者》であれば、ティオレ、あなたの役目は重大ですよ」
「心得ております。すべては神のお導きのままに」
「よろしい、ティオレ、あなたに神の正しき導きがあらんことを、Amen」
「Amen」

「ふうん……親切な人、ねぇ……」
 杯の中で酒を回しながら、その水面に映る照明の揺れる炎を見るともなしに見ながら、ジェッターがつぶやく。
「やっぱり引っかかるよねぇ?」
「まぁ、そういうコトもあるかもしれねェが……そういや……」
「……ん? どしたの? ジェッター?」
「いや、そういやなんかクオンのヤツ、ときどき妙に懐を気にしてるみたいだったんだよな。何か大事なモンでも持ってるみたいに」
「……うっわー、さっすがシーフじゃん、とかいってあげようか? ジェッター?」
「……なんだよそのじとーっとした目つきと棒読みの賞賛は」
「他人の持ち物そんなふうに気にするなんて性格悪いよ」
「ま、オレ自身そう思わんでもないけどな」
「まぁそれは置いといて、本命のほうはどうなった? ジェッター?」
「本命?」
 わざとらしくジェッターが首をかしげる。
「んもーっ、ジェッター、人数増やす交渉しに行ったんじゃなかったの?」
「あーいや、それはまぁその通りなんだがな……」
 ぽりぽり、と頭をかく。
「ちょーーーっとばかり夜が更けすぎちまったなーっつーか」
「……まぁね……ボクも思わなくもなかったんだよね……」
 ため息をついて、シエーアが周囲を見渡した。その視線を追うように、ジェッターも店内を見渡す。
 空いてる席は少ない。が、ほとんどの席に座っているのは、酔いつぶれて部屋に戻る気力も無くしたような連中ばかりだった。
「……ま、ティオレちゃんのほうに期待しますか」
「期待できると思う?」
「ダメだったら、そんトキゃアレだ、《眠りの呪文》とかひとつ激しく頼むわ」
「……物凄い勢いでやってみるよ」
「どういう勢いだよ、それ」
「クオンに訊いて……」


Written by DRR (03.12.26)
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