JOL 的 リレー小説


タイトル未定



 現在進行中のリレー小説はこちらからどうぞ。(直リンは何故かはじかれる模様)





五周目一番



 彼女はある男を捜していた。彼女から幸福を奪った仇である、あの男を。その為だけに全てを捨ててきた。親しかった人々とも別れ、財産を――幸せな思い出がある財産すらも全て売り払い、他の一切を省みずに。復讐、只それだけのために今を生きている。手がかりは少なく足取りを追うことすら覚束なかった。だがそれでも、なんとか追いついた。この町にあの男がいるはずだった。
 あの男を捜すには、やはり情報が必要だった。鷹が町を飛んでいれば、それを追うという方法もあったのだが、流石に目立ちすぎるからそうそう飛ばせてはいないのだろうか、鷹を見つけることはできなかった。だが、ここまで来てそんな、運に任せるような方法をとるつもりもなかった。だから、あの男を見つける為には、目撃情報かあるいはこの町の情報屋に会うことが必要だった。その為に、町の人々に話を聞いていた。その方法はいたってシンプルだった。

「……情報屋の居場所も、男の情報も、あなたたちは知らないのね?」
「しらねぇよ。……くそ、とんだ厄日だ」
 町の表通りからは離れた、普通の人間はそうそう近寄らない裏通り。肩を押さえて座り込んだ痩せぎすの男と、それとよく似た男――こちらは先ほどから「骨が折れた」だのと叫んでいる。その二人を少女が見下ろしていた。
「そう。なら、あなたたちに用はない」
 そして、少女は軽い落胆の表情を浮かべ、その場を立ち去ろうとする。
「ちょっとまて! てめぇ、そんなこと聞く為だけにこんなことしたってのか!?」
 その言葉に少女は振り返りもせず、そのまままた裏通りを歩いていく。

 少女――ソウカが求める情報は人々の生活の裏側の生きる人間、『裏』の世界の情報だった。故に、普通の人々が通らないような裏通りを歩き、それらしい人々に話を聞いて回っていた。だが、少女の話をまともに聞くものもほとんどおらず、また手持ちの金に余裕があるわけでもなかった。そういう人々から話を聞きだすために彼女がとった方法は『話したくさせる』ということだった。つまり実力行使。幸い――というのかはわからないが――ソウカはまだ少女といえる年齢である。少女がこんな裏通りで一人でいれば、当然のごとくにからまれる。そこで、実力を持って丁重にお断りをし、ついでに話をしたくなるようにする。そんなことをもう数回繰り返していた。しかし、彼女がほしい情報は一つも得ていなかった。そしてソウカはまた、裏通りを歩いていく。

「待ちな、嬢ちゃん」
 声のした方を振り返ると、単純な質量という点でソウカの倍はあろうかと思われる屈強そうな男二人を引きつれた、眼つきの悪い壮年の男が立っていた。声と、男たちの放っている雰囲気は、今までのごろつき連中のようなからかいを含んだものではなく、剣呑さを醸し出していた。
「ずいぶん乱暴な手段で人を探してるみたいじゃないか。みんなが困ってるぜ」
「……そんなことを言いにきたの?」
「いやいや、物騒な人間が俺を探してるというのでね。このままじゃゆっくり寝られそうもないんで会いにきたって訳さ」
 その言葉で相手に向き直り、きちんと話をする態度をとる。
「なら、あなたが情報屋ってわけね。私はある男を捜しているの」
「ああ、そいつも聞いてる。だが、生憎と俺は知らないんだ。その代わり、その男の情報を持ってそうな人間のいるところを紹介してやろうと思ってね」
「それはありがたいけれど、その対価として払うものがないの。だから……」
「ああ、それもいい。これも町の平和の為だ」
 それは胡乱な事この上ない。個々人の性質がどうであろうと文句を言うつもりもないが、『情報屋』という人種は只で情報を売ることはないと思っていたのだが……まぁ、それもどうでもいい事。あの男に出会えるのならばその他の全てが瑣末ごとである。この話が例え彼女に制裁を加えるための嘘だとしてもどうでもいいこと。
「まぁ、胡散臭いだろうなぁ。だが別にあんたが信じようが信じまいがどっちでもいいさ。暫く物騒になるが、そのうちあんたに報復しようとする人間が出てくるってだけの話だからな」
「信じるわ。他に情報もないのだから」
「その方が有難い。おい、この嬢ちゃんを案内してやれ」
 先ほどから黙ってみていた男の一人が、付いて来い、と言い歩いていく。ソウカはその後に付いていった。

 男がとある店に入り店員に何かを話しかけると、店の奥に行くようにと促された。店の奥には薄暗い階段があり降りていくと、換気が悪いのかタバコの煙は充満し空気がよどんでいるようだった。そこでは、数人の男女がたむろしており、上の『表』の店とは別に、何かいかがわしい『裏』の商売を感じさせるものだった。そこを通り、更に奥にある扉を開け、薄暗い部屋に入っていく。そこには一見して柔和な、しかし相当修羅場をくぐったのであろうと感じさせる雰囲気を持った男が一人、彼女を待っていた。
「ほお。あんたが噂の。いやはや、まさかこんなに可愛らしいお嬢さんだとは。いや、たった一日足らずで凶暴と有名になるような人間だからな。もっと見た目からして危ないやつかと思ったが」
(……こいつも)
 『お嬢ちゃん』と呼ばれるのは好きではなかった。なにか、お前はまだまだ子供だ、と馬鹿にされてるように感じるからだ。だがそれを人に言ったことはない。単にソウカの中で、その相手への態度に影響するだけだった。
「それで。あなたはあの男の情報を持っているの?」
「なるほど。そのせっかちさは噂通りだな。まずは自己紹介からいこうじゃないか。俺はこの辺のギルドの顔役の……」
「私はあなたと馴れ合うつもりはないの。要件だけを済ませて」
 男はやれやれと肩を竦め首を振り、軽くため息をついた。
「そんなに急いでどうなるっていうんだ。何かが逃げるわけでも……いや、あの男は逃げるかもしれないか」
 そんなことをにやけた顔で言う男に、ソウカは苛立ちを覚えた。が、暴れるのはやめておいた。流石にギルドの顔役を相手にそんな事をすれば只ではすまないだろう。
「まぁいい。あんたのお探しの男の情報を教えてやる。ただし、只というわけにはいかないがな」
「悪いけれど、手持ちの金には余裕がないの。だから、金銭では対価は払えないわ」
「なら、あんたが持っているって言う水晶の剣でもいいぞ?」
 その言葉に考え込むソウカ。この剣自体はもらい物ではあるし、何か思い入れがあるわけではない。しかし、あの男と繋がるものでもあるらしい。それは彼女が持っている、唯一あの男に関係するものである。情報がどれほど正しいのかわからない以上、おいそれと手放すわけにはいかないのだが……。と思案していると、元よりそれは期待していなかったのか、あるいは今度の要求こそが本命だったのか、男はさして気にした風もなく言ってきた。
「ふむ、ならこういうのはどうだ? 実は今、ある大きな仕事があってな。それを手伝ってほしい」
「その方が私としても嬉しいけれど」
「今、町ではトロル討伐のために公爵様が動いただろ? そして、腕に自身のあるナーリ王子がそれに参加するって話なんだよ。それでな……そのナーリ王子を殺してほしいって言う依頼があってな。それを手伝ってほしい」
「……私に、王子を殺せというの?」
「いやいや、それはうちのもんがやる。ただ、確実にやっておきたいんでね。あんたは討伐隊に参加をして、王子の傍でそれとなく事がうまく運ぶようにしてほしいんだよ」
「つまり、周りの護衛と思しき人間を遠ざけたり、人の少ないほうに誘導したりって言うこと?」
「そういう事だ。どうだ? 暗殺の成功失敗に関わらず、事が終わったらエルフィスの情報を教えてやるぞ」
 またも思案をするソウカ。元より、この男のような類の人間は嫌いだった。そんな奴等の、それも暗殺などということに手を貸したくはなかった。その上、王子に直接害するのは別の人間とはいえ、片棒を担いでいると知れたらこの国ではもう、まともに生活できなくなるだろう。だが……
(そんなことはもう、どうでもいい。今はただ、あの男に復讐するだけ)
 今のソウカは、それだけの為に生きている。それ以外の事は瑣末ごとだった。
「いいわ。その話に乗りましょう」
 その言葉に、男はにやり、と悪巧みが――策略と言うようなものではなく、悪戯の様な悪巧みが――うまく言ったような顔をした。
「よし、まぁ、具体的な事や実行する奴等との面通しはまた今度という事で、あんたは討伐隊の申し込みにでも行って来な。細かい根回しはやっておくがね」
「それではこれで」
 そういって、ソウカは部屋を出て、討伐隊の申し込みに向かっていった。それと入れ違いに、小柄な男が部屋に入ってく。
「一体何を考えてるんですかい? あの嬢ちゃんが探してるのはエルフィスのやつなんでしょう?」
「くっくっく、いいじゃねぇか。ちょっとした遊びだよ。どうせ奴は顔を変えるんだしな。さて、どうなるのか見物だな」

「討伐隊に参加するみたいね、あの子達」
 とある宿のとある一室で、いかにも実直そうな厳しい顔つきの男と妖艶な女が会話をしていた。
「でも、討伐隊を呼びかけたのがマーロン公爵で、その討伐隊にはナーリ王子が参加しに来ていて、その上ガトー公爵まで一緒にこの町に来ているなんて。近隣からも人が押し寄せてきたみたいだし、ちょっとしたお祭りね」
「やはり、この町では動きづらいようだな」
 男女とその配下の者6人は、巻物の資格者たるクオンを追ってこの町に入り、クオン達や町に関する情報を集めていた。
「さて、クレイトン。どうするの?」
「ふむ。とりあえずは静観するしかあるまい。このまま監視を続ける」
「そう。残念ね。あの娘に会いにいけないなんて」
 そういい、あの娘――資格者と行動をともにしている、元気な少女の事を思い浮かべる。それと、あの背の高い男もなかなか面白い性格をしていた。彼らの事は気に入っていたのだが……
(あの時は私の姿を見られていないのだし、会いに行こうかしら)
 そんな他愛もない事を考えていると、配下の一人が部屋に入ってきた。討伐隊に参加申し込みに行くクオン達を
つけさせていたから、その報告だろう。その男は敬礼をし、報告する。
「資格者たちですが、どうやら討伐隊に参加するのは守護者を除いた3人のようです」
「守護者は参加しないのね」
「確か、守護者の武装はクロスボウだったな。相手がトロルではやりづらいのだろう」
「それと、資格者はその後、討伐隊に参加する他の男に連れられ、町の奥まった民家に入り何か会談をしていたようです」
「内容はわからないの?」
「申し訳ありません。発見されない事を第一に、とのことでしたので……」
「いや、十分だ。ご苦労だったな」
 報告が終わると、男は再び敬礼をし部屋を出て行く。部屋に残されたのはまた、男と女。だが、先ほどとは違う。現状に変化があったのだ。
「守護者が一人で行動する、ということだな」
「そうみたいね。守護者が資格者を離れるなんて、何を企んでいるのかはわからないけれど」
「だが、好機だ。人々の目も討伐隊の方に向いている事だろう。我々はその間に守護者を襲う」
「私たちの最優先事項は巻物の奪取だけれど?」
「だが、守護者が邪魔である事には変わりはない。それに、巻物を持ち歩いていないとしたら好都合だ。資格者が討伐隊に参加しているうちに、事を終える事ができる」
「そうね。……資格者が密談しているようだった、という事だから、それが気になるけれど」
「そうだな。だが、この機会を逃す手もない。資格者には監視をつけさせるのだ。何かあれば報告があるだろう」

 こうして、クオンのあずかり知らぬところで、事態は進行していく。トロル討伐隊、王子、公爵、王子の暗殺、エルフィス、ソウカ、そして巻物を奪いにきた彼ら。それぞれの思惑が複雑に絡み合っていった。


Written by 斎祝 (04.06.24)
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