JOL 的 リレー小説


タイトル未定



 現在進行中のリレー小説はこちらからどうぞ。(直リンは何故かはじかれる模様)





五周目五番



 ――この感覚は前にもあった。
 遠い昔の事のようにも、昨日のようにも思える。
 暗闇から這い出るように、意識の底から引き摺り出されるように……
 ジリジリと照りつけている光量を、徐々に瞼に感じはじめる。
「クオン?! クオン!! クッオーンッ!!!」
 遠くから聞き覚えのある声がする。
(誰だったっけ?)
 返事をしようと思った。
(何故だ? 何故返事をする必要があるんだ?)
 瞼が重い。声の主を確認しようにも身動き一つとれない。

 声の主が走り寄ってきたようだ。
 少し上ずった息遣いが聞こえる。
「クオン……??」
 額に、頬に、ひんやりとした柔らかい感触……手のひらが当てられているのだろうか。
 声の主が容態を確認しているのだろうか。
(あぁ、母さん? 喉が渇いたよ……体中が痛い。やっぱり無理だったみたいだ。ゴメン。父さんは、父さんは……??)
「……父さん…は?…」
 身動きひとつせず仰向けに倒れていたクオンに、いきなり手を両手で握られてシエーアは安堵のため息をつく。
「あぁ、ヨカッタ。クオン、ほら、しっかりして!」
「ん? ……ぁあ……」
 うっすらと開いた瞼に写るのは、柔らかい逆光に覗き込むシエーアの顔。
 だんだんと錯乱していた意識が1本の線で繋がる。
「……シエーア……。……王子は? 王子!!!」
 ふいに起き上がろうとして、体中の痛みに顔をしかめる。
「ほら、無理しない」
 シエーアが上体を支えて、クオンを座らせる。
 大小さまざまな大きさの石、岩といっても良いぐらいのもの、元は橋だったのであろうか、流木などが散乱している河原には、あちらこちらに数名の人が倒れている。
 生きているのであろうか、死んでいるのであろうか、定かではない。
 川は少し淀んだ色をしている。
「……近くの人で生きているのは、ボクたちだけだよ。王子は二人とも見つからない」
「そうか……」
 シエーアは泥がついて乾いてしまったボサボサの髪に、顔にも汚れがついていた。
 それまで気が張っていたからか、クオンが生きていたことで安堵したのであろうか、はらはらとシエーアの頬を涙が伝い、乾いた頬の泥を色濃くした。
「……ジェッターが見つからないんだ……少し下流まで探してみたのだけど……」
 クオンはシエーアの頬に手を当て、涙を親指で拭った。
「大丈夫だ。見つからないってことはどこかできっと元気に生きているさ」
 クオンはシエーアに支えられながら、足場の悪い石の上にヨロヨロと立ち上がり辺りを見回した。
「ここは……ドコだ?」
「わからない……けど……きっと下流なのは確かだよね」
「そうだな……」
 空の高みを川に沿って下流方面に鷹が飛んで行った。
 トロルの姿は死体以外には見当たらなかった。命あるトロルは、未曾有の惨事に恐れをなして森へと逃げ込んでいったのだろうか。
 どのぐらい時間が経ったのかはわかっていないが、服についた泥は乾いていることと、明らかに雨が降っていた空模様とは違うことから、流された直後ではないと感じる。
「街に戻ろう。街に戻って状況を把握しないと……」
「うん、そうだね。でも、近くに集落があったら寄ってみようよ。何かわかるかもしれない。街までどのぐらいの距離かもわからないし……」
「とりあえず、上流に向かって進むか……」
 河原から土手に上がった二人は、重い足取りで見えない街に向かって、川の上流に向かって……歩き出した。


Written by Chiha (04.09.10)
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