JOL 的 リレー小説


タイトル未定



 現在進行中のリレー小説はこちらからどうぞ。(直リンは何故かはじかれる模様)





八周目三番



 旅の道連れである二人を見る。黒いのとからかい甲斐のあるの。二人は今、激しく身体を動かしていた。マリエルにはどんな動きをしているのかを正確に見て取る事は難しかった。見慣れてきたのかある程度はわかるのだが、二人の動きは早く鋭い。肉体派ではない彼女には―体を鍛える事など、マリエルにとっては意味がないのだから当然だ―二人の動きを正確に認識出来るほどの眼力はなかった。見てもよくわからないのだが、他にする事もなく。無表情なのと少し顔を顰めているのを、ぼうっと見ていた。

 行動を共にする事になってから暫くして。街道脇で休憩中の時。
「鍛錬に付き合って欲しい」
「鍛錬?」
 ソウカがティオレにそんな事を言った。あの頃に比べれば随分強くなったつもりではあったが、やはりアルウィンには敵わなかった。アルウィンには余裕があったのだ。捨て身の攻撃すらあしらわれてしまうほどに。
「仇を討つには、まだまだ鍛錬が必要だとわかったから。1人でやるよりも効果がありそうでしょう?」
 毎日の鍛錬は欠かしていなかったが、1人で出来る事は多くない。だが、今はティオレがいる。今の状況を利用しない手はない。
「そんなに強いの? ソウカちゃんの仇って」
「……いいえ」
 いつもの無表情で。自分の内の激情を無理に押しとどめようとしている無表情で、ソウカが答える。
「私が弱いのよ」
「ふーん。まぁなんでもいいけど」
「どうかしら、ティオレ?」
「そうですね。私からもお願いします。私も、鍛錬はしておきたいですから」
 鍛錬を怠れば腕がなまってしまう。けれど、1人で出来る鍛錬は限られている。それはティオレも同じであった。そして、ティオレほどの力量になってしまうと、鍛錬できるほどの相手も多くない。ソウカはまだまだではあるが、十分鍛錬にはなるだろう。
「ただし、移動のことも考えなければいけませんから、それほど時間をとりたくはありませんけれど」
「多分平気。だらだらと無駄に長くするつもりはないから。だから、本気でお願い。ただし、クロスボウを撃たないで」
 あの時―ティオレがソウカの素性を確かめた時に、彼女の力量は推し量れた。ティオレもまた、ソウカよりもずっと強いだろう。全力で戦っても、一撃を加える事すら出来ないかもしれなかった。だから、殺す気で戦える。つまり、実戦並みの訓練になるだろう。ただ、ティオレはどうやらクロスボウでの中距離戦が得意な様であったが、そういう鍛錬を望んではいなかったのだ。
「撃たないのは、こちらもそのつもりでしたが」
 ティオレにしても、クロスボウの射撃訓練は一人でも出来る―動く的相手ではないが―ので、そう申し出るつもりだった。だが。
「…・・・いいのですか?」
「ええ。私を叩きのめしてくれていいわ」
 お互いに、鍛錬だと思って戦えば寸止めで、でないとしても相手に攻撃を加えた時に力を緩める事はできるだろう。だが、ソウカは本気で戦ってほしいと言った。ソウカと自分の力量差はおおよそ把握できている。油断をしなければソウカを受ける事はそうないだろうと思えた。とはいえ、本気のソウカを相手にするならば、手加減は出来ないだろう。寸止め、あるいは力を緩めるつもりで戦えるほどの力量差ではない。打ち抜くつもりで攻撃したのなら、骨折くらいはするかもしれない。自分はいい。本気で戦えばソウカの攻撃は当たらないと思う。しかし、ソウカはそうもいかないだろう。
「わかりました。では全力で」
「お願い」
 そんな二人を傍目に、マリエルは
(・・・・・・そういう趣味? とか言ったら、流石に度が過ぎた冗談よねぇ)
 などと思っていた。

 そんなわけで。二人は鍛錬をした。ティオレの戦い方は、クロスボウを使い、距離をとって戦うというものだった。だから勝手に、近距離戦は得意でないのではないかと思っていたのだが。今まで一度もソウカの攻撃は当たっていない。反対に、ティオレの攻撃はソウカを打ち据えていた。その度に、強烈な一撃がソウカの体に加えられていた。そんな事を幾度か。時間は長くない。しかし、濃密な―実戦並み、というよりも刃を使用していないというだけで、ほぼ実戦な―鍛錬は終わった。
「おつかれさま〜。・・・・・・で、大丈夫? ソウカちゃん」
「・・・・・・平気」
 最後に一撃を食らった場所を抑えながら、よろよろと立ち上がるソウカは、言うほどには平気でない風ではあった。
「ティオレも容赦ないわねぇ。見てるこっちが痛くなってくるわよ」
「そう言われましたから。それに、手加減した一撃では彼女には簡単に捌かれてしまうでしょう」
「あんな鍛錬だと、身体を壊すわよ?」
「……私の身体は頑丈に出来てるから」
(忌々しいほどに)
 思っても言葉には出さず。言ってどうなる物でもないし、余計な詮索をされるのは嫌だった。忌々しいほどに頑健な身体。この身体のおかげで生きていられる。この身体の所為で生きなくてはいけない。
「ふーん、まぁそうよねぇ。鍛錬しているって言うのに傷もなく、綺麗な身体よねぇ」
 マリエルはそう言いつつ、ソウカの身体を爪先から頭頂まで視線を巡らせる。その顔は笑いをこらえようとするかの様な。にやっとしていると言う様な。そして、体はソウカに向いたままで、ゆっくりと後退りながら言葉を続ける。
「……体の隅々まで」
「……っ。マリエル!」
 数日前の出来事を思い出し、頬を赤く染める。マリエルは、言った時には既に距離をとっていた。ソウカはそれを追いかける。身体は、思ったより平気なようだった。
「あなたとは一度本気で話し合いが必要みたいね……」
「あはははは。落ち着いてソウカちゃん。褒めてるのよ? 肌もすべすべで吸い付くようだったし。全身」
「ぜ……気を失っている時に何をしたの、あなたは」
「……だから、何をしているのですか、あなた達は」
 ティオレの声は、やっぱりため息まじりだった。


斎祝 (05.04.11)
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